2010年7月10日土曜日

チームの状況対応リーダーシップ®

CLS Japan本部 網あづさ

状況対応リーダーシップ®(S.L.理論®)では、チームの目標達成、成長、および変革ついて、チームレディネスを基準にしています。

チームの目標達成 

チームの目標達成には、目標に対して、チームがどれだけ「準備できているか(ready)」というチームレディネスを知ることが出発点となります。チームレディネスが分かれば、目標達成までに、そのチームに何が必要かがわかります。その必要なものを提供することがチームリーダーシップになります。

チームの成長

チームの成長とは、チームレディネスが向上することです。チームレディネスの基準は、目標なので、チームレディネスが上がるということは、目標達成に近づくということであり、低レディネス状態では「準備できていなかった能力や意欲」を得たことになります。

*状況対応リーダーシップ®(S.L.理論®)では、レディネスを能力と意欲によって成り立つととらえています。  


チームの変革

現代求められている変革は、過去の延長線上ではなく、新しい価値を創造する不連続の変化であり、チームレディネスの連続的な成長だけでは、過去を踏襲していることになります。そこで、チームレディネスの成長を超える新しい考えが必要になります。


チームの変革を考えるにあたって、チームレディネスの目標達成と成長を図表でとらえてみます。

*チーム(グループ)レディネスの詳細は、「行動科学の展開、入門から応用へ」生産性出版をご参照ください。


チームレディネス育成によるチームビルディングと成長 

チームレディネスは、チームのまとまりがない状態をR1、徐々にまとまりつつある状態をR2,R3,そして目標に向かって一丸となって進んでいる状態をR4として示されています。チームレディネスは目標達成のための役割や責任の明確化されるにしたがって、またチーム内コミュニケーション量や質が高くなるにしたがって高くなります。

チームレディネスは、「意思決定」と「コミュニケーション」という2つの軸によって定義されます。 
これを表にすると、次のようになります。


リーダー行動

S4
自律化
S3
参画化
S2
明確化
S1
規制化

チーム
レディネス


R4

R3

R2

R1

意思決定



目標設定や役割責任決定をメンバーに任せ、リーダーは見守る。
目標設定や役割責任決定にメンバーを参加させる。
役割責任をメンバーと調整し、リーダーが最終決定する。
目標や役割責任をメンバーに伝える。

コミュニケーション


中心はなく、メンバー間で多方向、リーダーは外部にむけて
中心はなく、リーダーやメンバー間で多方向
中心があるが、対メンバー、メンバー間で多方向
中心からメンバーに向けて一方向

ここまでは、従来の状況対応リーダーシップ®(S.L.理論®)の考え方であり、現状のチームレディネスに対応する最適なリーダー行動を選ぶことになります。

すでに目標が定められている場合には、従来のチームリーダーシップは有効に機能していました。与えられた目標にしたがって、リーダーは仕事を配分したり、相手のレディネスにあわせて適切な指導・支援を行うというように。

しかし、めまぐるしく変化し不確定要素が多い状況では、目標は流動的で、従来のチームリーダーシップでは対応しきれません。常に、新しくなにかを創り出さなければならない、めまぐるしい変化に対応しなければならない、リーダーひとりではなくメンバー全員が創造活動に携わらなくてはならないという、新しいリーダーシップが必要になります。


チームレディネスを成長させるコーチング

そこで、チームメンバー全員に、自ら「気づきや新しい発見」を促すリーダーシップとして、チームレディネスを成長させるコーチングを考えてみます。

リーダーシップの定義は「働きかけること」ですから、「未来の行動に働きかけるリーダーシップ」として、S1からS4について、次の4つのスタイルが考えられます。
  • S1: フィードバック(Feedback)にかかわる働きかけ 
  • S2: アジェンダ(Agenda)にかかわる働きかけ 
  • S3: フォローアップ(Follow-up)にかかわる働きかけ 
  • S4: フィードフォワード(Feedforward)にかかわる働きかけ 
*「コーチングの神様が教える「できる人」の法則」(マーシャル・ゴールドスミス)、状況対応リーダーシップ®(S.L.理論®)、および「自分アジェンダを引き出すコーチング」(網あづさ)を参考


S1:フィードバック

「気づきや新しい発見」を促す第一ステップとして 現状を変えたいという認識が必要です。フィードバックは、現状に気づかせるための働きかけです。現状はどうですかと聞くこともできるし、現状はデータによればこうですと事実で示すこともできます。この問いかけや事実提示によって、現状を知ることができます。

S2:アジェンダ

「変わらなければならない」と気づいたら、次に必要な働きかけは、どのように変わるかという、内容にかかわることです。変わるためのイメージや希望を、内面を探索することによって感じ、気づくことが目的ですが、これは「自分アジェンダ」を探るための働きかけです。変わるべきアジェンダは、自分の内面を深く掘り下げるのですが、掘り下げれば下げるほど、自分ひとりで決めるのではなく、 周囲の人々や環境との関係によって決まると感じてきます。独りよがりの変化ではなく、自分を取り巻く人々や環境がどのような自分を求めているのか、その求められている変化を遂げることが、周囲や環境を満足・充実させ、ひいては自分自身をもっとも幸福にさせる変化となります。

S3:フォローアップ

変化の必要性に気づき、どのように変化すべきかわかったら、次は実行あるのみです。しかし、人間や組織には現状を現状のままにしておきたいという慣性があり、慣性に逆らって変化を推し進めることは困難です。そこで、「決めたことをやっていますか?」、「これくらい進んでいますよ」、「決めた方向に進んでいますか?」など進捗状況を客観的に教えてもらったり、自問自答することが役立ちます。こういった進捗状況の確認や支援がフォローアップになります。


S4:フィードフォワード

こうして、自分が決めた変化を行動に移し、進み始めます。もし、新たな変化が必要であれば、それに気づくための働きかけがフィードフォワードです。客観的な視点でなんらかのヒントをもらうこともできますし、自分で探ることもできます。フィードフォワードの問いかけにより、さらなる変化や、ひとりよがりではない変化を見つけ出すことができます。



2010年7月2日金曜日

複数リーダーのチームリーダーシップ

CLS Japan本部 網あづさ

現代求められている変化は、過去の延長線ではなく、過去から断絶された「不連続の変化」だといわれます。不連続の変化は、同じような目標に対するチームレディネスが向上することではありません。

連続変化(第1種変化)
不連続変化(第2種変化)
安定したそれ自体は変化しない環境の中の変化(適応、進化)
背景となるシステムの根本的性質や根本的状態が変化する(変貌、革命)
「行動科学の展開、入門から応用へ」生産性出版、2000年より

現代のチームが従来のチームと異なる最大の点は、だれにも正しい目標がわからないことだといわれます。個人個人の限られた知識や経験だけでは、もはや持続可能な事業を継続することはできません。だからこそ、専門力を結集したチームが必要なのであり、お互いにアイディアを引き出しあう、新しい力が必要だといわれます。


複数リーダーのチームリーダーシップ

現代のチームには、既存の目標ではなく、気づきや新しい発見によって変革目標を掲げなければならないという点以外に、もうひとつ従来のチームと異なる点があります。それは、リーダーがひとりだけではない、つまり、全員あるいは多数がリーダーであるという点です。

環境も複雑で、変化や多様化も激しい現代は、メンバー全員が多種多様な背景を持ち、それぞれが卓越した専門力をもっています。こういったチームを、ひとりのリーダーが率いることは不可能であり、むしろ、全メンバーの特性や専門力を余すところなく引き出せるような「潜在力を引き出すリーダーシップ」がチームの成長や変化には不可欠だといわれます。


従来のチームと異なる点


従来のチーム
現代のチーム
目標(なにをなすべきか)
リーダーが掲げる(リーダーが知っている)
なにがベストかわからないし、常に変革を求められる。
低レディネスでは、一部のメンバーの専門力で決めるしかないが、チームレディネスが高まるにつれ、複数のメンバーの専門力を出し合い、新しい発見をし、新しい目標を見つけ出す。高レディネスでは、全員で常にお互いに新しい発見を求め、それらの相乗効果に基づくチーム目標を決めていく。
進行管理(どのようにすすめるべきか)
リーダーが決める(リーダーが知っている)
なにがベストかわからないし、常にシステムや技術は革新している。
低レディネスでは、一部のメンバーが進行管理を行い、レディネスが成長するにつれ、複数のメンバーが進行管理を共有し、高レディネスでは全員が進行管理を共有する。
役割責任
リーダーが結果責任を負う。フォロアーたちは低レディネスではひとつひとつの作業についての責任を負い、高レディネスになるにつれ遂行責任全般を負うようになる。
全員が結果責任を負う。
低レディネスでは、メンバーが自分の役割についてのみ責任を負うが、チームレディネスが高まるにつれ、お互いの役割についても助け合い、チームとして責任を果たそうとする。
コミュニケーション
低レディネスでは、リーダーからフォロアーへ一方向的に、徐々に双方向的になり、高レディネスでは多方向的になる。
低レディネスでは、11のコミュニケーションが多数あるというバラバラな状態。チームレディネスが高まるにつれ、1対多、多対多、とコミュニケーションチャネルが増えていき、高レディネスでは、全員が同じだけのコミュニケーション・ッチャネルをもつようになる。


相互リーダーシップ 

リーダーシップの働きを端的に表す表現に、「行く先を決めて、行き方を保証する」というものがあります。つまり、リーダーは目標を定めて、目標達成できるまで必要な指導育成を行うということです。

目標の内容や目標達成に必要な指導育成内容は、リーダーシップのコンテンツであり、目標を決めるというステップ、目標達成までの行き方は、すべて手順でありプロセスです。そこで、リーダーシップには、コンテンツを示すという行動とプロセスを示す行動があることがわかります。このようなコンテンツを提供するリーダーシップは「コンテンツ・リーダーシップ」、プロセスを提供するリーダーシップは「プロセス・リーダーシップ」と呼んでいます(「行動科学入門」生産性出版、2005年)。

チームは、全員あるいは多数が、程度の差はあっても、それぞれの分野の専門家だと考えることができます。どのリーダーも自分の専門力が必要とされる場面々々で、コンテンツを示す行動をとったり、プロセスを示す行動をとることになります。

メンバーの間でそういった相互作用を通して、チーム活動に必要なコンテンツやプロセスを提供しあい、チーム目標達成に近付いていくことになります。それぞれが、ある場面では、コンテンツのリーダーであり、ある場面ではプロセスのリーダーであり、また、ある場面ではコンテンツのフォロアーであり、ある場面ではプロセスのフォロアーになります。

このように、メンバーたちがお互いにコンテンツやプロセスの専門力を出し合い、達成に近付こうとする過程は、メンバーたちがリーダーシップをお互いに発揮しあっている「相互リーダーシップ」の状態だと考えることができます。

チームレディネスを知るための2つの軸は、「意思決定」と「コミュニケーション」ですが、相互リーダーシップに対するチームレディネスは、チームにおけるそれぞれの「共有度」だと考えられます。

相互リーダーシップにおけるチームレディネス


R4
R3
R2
R1
意思決定(コンテンツ)共有度
コミュニケーション(プロセス)共有度
状態
目標というひとつの方向に向かって、全員が情報を内部化させて団結している。
目標というひとつの方向に向かって、それぞれが情報を共有している
複数の目標に向かって、それぞれの集団が情報を共有している
ばらばら

相互リーダーシップのリーダー行動

相互リーダーシップ
S4
S3
S2
S1
フィードフォワード
フォローアップ
アジェンダ
フィードバック
意思決定共有リーダーシップ
新たな目標や役割責任を見つけ出す

目標や役割責任を確認しあう

情報提供とともに、目標や役割責任の調整を行う

目標や役割責任の具体的情報を提供する

コミュニケーション共有リーダーシップ
団結して
共有して
グループごとに
メンバーごとに


低レディネスの場合は、少数のメンバーだけがコンテンツ発見やプロセス管理にかかわっているかもしれませんが、チームレディネスが高まるにつれ、多数のメンバーが相互協力してコンテンツやプロセスにかかわってきます。もっともチームレディネスが高い状態では、プロセスは全員が共有しているので、強いプロセス・リーダーシップはもはや必要なく、全員が新しいコンテンツ発見に注力しながらも、一丸となって目標達成に向かっていることになります。

相互リーダーシップを、以下の記号を使って示したものが次図です。

C:コンテンツ・リーダーシップ

P:プロセス・リーダーシップ 


cp:コンテンツ・リーダーシップもプロセス・リーダーシップも弱い

cP:コンテンツ・リーダーシップが弱く、プロセス・リーダーシップが強い

Cp:コンテンツ・リーダーシップが強く、プロセス・リーダーシップが弱い

CP:コンテンツ・リーダーシップもプロセス・リーダーシップも強い。

この矢印で示された図から、チームが一種のネットワーク組織であることが分かります。ネットワーク組織においては、情報へのアクセス力があるメンバーに求心力(ネットワーク・セントラリティ)が生じるといわれますが、情報力や専門力など特にパーソナルパワーにもとづく力が重要になると考えられます。

*パワーについては、「行動科学の展開、入門から応用へ」(生産性出版)をご参照。
*ネットワークセントラリティについては、「企業家とクレディビリティ」(慶応経営学会)をご参照。

情報や専門性が重視されるネットワーク組織では、相互リーダーシップによって構築される未来への変革コンテンツ、つまり、「チームアジェンダ」が求心力になると考えられます。メンバーたちがお互いに気づきや新しい発見ができるよう働きかけあい、お互いに強く成果を出したいと感じあい、立ち遅れているメンバーがいればサポートしたくなるような、相互リーダーシップを発揮しあいたくなるような、そういうチームアジェンダであればあるほど、チームレディネスも高くなります。