2016年3月22日火曜日

リーダーシップの効果性とは?

CLS Japan本部 網あづさ


リーダーシップの原則をまずはおさえておきたいと思います。

これまでのリーダーシップ研究といえば、多くの場合、経営学の一部として研究されてきました。リーダーシップ研究のレベルは、大きく分けて次の3つがあります。
  • フォロアーのパフォーマンスを上げるリーダーシップ
  • チームのパフォーマンスを上げるリーダーシップ
  • 組織のパフォーマンスを上げるリーダーシップ
順に個人レベル、チームレベル、組織レベルのリーダーシップになります。

リーダーシップに関わる限り、どのレベルでも、
  • 計画や意思決定を行う側面(意思決定の側面)と
  • 影響を及ぼす人間の側面(人間の側面)
があります。

たとえば、
  • 組織レベルなら経営目標やビジネスアイディアなどの意思決定の側面、環境や文化や価値観などの人間の側面、
  • チームレベルならチーム目標という意思決定の側面、チーム活動やメンバーという人間の側面、
  • 個人ならタスクや業務などの意思決定の側面、担当者や遂行という人間の側面があります。
リーダーシップの「意思決定の側面」と「人間の側面」
意思決定の側面
タスク
目標
使命・アイディア
人間の側面
個人
チーム
組織
個人と組織の問題は、個人目標か組織目標か、人間が先か組織が先か、などの問いで語られ、「人は組織の歯車ではない」などの不満で言い表されたりします。ここでは組織やチームのリーダーシップを考える前に、組織やチームを構成する人間のリーダーシップに焦点をあてて考えたいと思います。
  • リーダーシップの原点はなにか?
  • フォロアーの欲求とは?
  • フォロアーを動機づけるとは?
  • フォロアーのパフォーマンスをあげるとは?
  • リーダーシップの効果性をあげるとは? 
経営の中のリーダーシップ研究の問題意識は、動機づけやリーダー行動研究を含め、ヒューマンリソースやビジョンや変革、組織文化、競争戦略など多岐にわたりますが、リーダーシップの原点に経つと、対象がなんであれ「いかに効果的な結果を出すのか」の1点に絞られると思います。

そこで、リーダーシップの視点を「効果性」に置き、これまでのさまざまな行動科学研究を整理してみたいと思います。

なぜリーダーシップか

なぜリーダーシップが語られるのか、第一にこの点からスタートしてみたいと思います。リーダーシップがなければどうなるのか。

たとえば、ただそこにあるだけ、動きがない「点」の集合を想像してみましょう。また、ある方向に向かって動いているベクトル(矢印)の集合を想像してください。

動きがない点
点の集合」は、動きがなく、あるがまま、ひとつひとつの点の間に関係が生じていない状態です。この状態から想像できるのは方向性や変化がない状態です。

動いているベクトル


動いているベクトルは、方向性がバラバラだったり、いくつかは同じ方向を向いていたりしますが、方向性があり動きがあります。動きがあるということは変化もあるということです。また矢印と矢印がぶつかったり、交差したり重なったりすることもあり、それぞれの間に関係が生じます。関係が生じるということは、お互いの動きを促進させたり抑止したりすることもあるということです。

人間は呼吸し、ものを食べ、動き、年を重ねて生きています。どんなに社会活動が少なくても、他人との関わりのなかでお互いに影響を与えたり受けたりしながら変化しています。その意味で、点ではなくベクトルの存在だととらえられます。人間は自分自身の個人活動、仲間との集団活動、あるいは大きな組織のなかでの組織活動、いろいろな場面で活動しており、個人としての側面、集団や組織の一部としての側面を同時にもっています。

複数のベクトルが、バラバラな方向を向いているのではなく、ひとつの方向を向いている状態を想像してください。バラバラなベクトルの集まりは、お互いの力を相殺してしまい、全体として動きを弱めてしまいます。ほとんどのベクトルが同じ方向を向いていれば、その方向に大きく動きます。

同じ方向を向いているベクトル



リーダーシップがある状態とは、ベクトルの動きが同じような方向に向いている状態です。リーダーシップがうまくいっている状態、つまり、効果的なリーダーシップがある状態とは、より多くのベクトルがひとつになって同じ方向に動いている状態です。

ひとつになっている太いベクトル


ベクトルのひとつひとつを同じ方向に向かせ、そのエネルギーをひとつにまとめることが、効果的なリーダーシップである、これは容易に想像できます。

このベクトルの状態を頭において、実際のリーダーシップで考えてみたいと思います。リーダーシップの考え方では、ある方向に進むと決めた人がリーダーであり、方向が目標、進ませるプロセス全体がリーダーシップと言われています。

最初の問い、「リーダーシップがなければどうなるのか」、おそらく最初の「動きがない点」の集合のままだと思います。

だれも「あそこに行こう!」という方向(目標)を示さない状態では、動かない点は動かないままです。まずは、行きたい「あそこ」を見つける必要があります。

だれかが行きたい「あそこ」を見つけたとします。でも、「いいね!」と言って一緒に行こうとする仲間がいなければ、ベクトルはあちこち向いたままで、細いひとつのベクトルが力弱く動いているだけです。仲間に「いいね!」と感じてもらうなにかが必要です。

「いいね!」という仲間が増えて、みんなが同じ方向を向いてきたとします。でも、ひとりひとりが全体を見ずに自分ができることだけをがむしゃらにやっているとしたら、なかなかひとつの大きな力としてまとまりません。全員の力をひとつにまとめる「働き」が必要です。

そして、力を結集した全員がその力を持続させることが、目標達成につながります。

動かない点のひとつひとつをまとめ、大きなエネルギーとして目標を達成すること、これこそ効果的なリーダーシップの働きになります。

リーダーシップの効果性のカギは・・・
  • 行きたい「あそこ」を見つけること
  • 仲間に「いいね!」と感じてもらうなにかを見つけること
  • 全員の力をひとつにまとめる「働き」を実践すること
  • 力を持続させること

2016年2月15日月曜日

非効果的リーダーシップ解決の方法:パーソナリティ・モデルの活用

CLS Japan本部 網あづさ

たとえ、リーダーシップスタイルがフォロアーのレディネスに適合していたとしても、コミュニケーションの方法によって、非効果的なリーダーシップになります。

非効果的なリーダーシップより

状況対応リーダーシップ®活用時に、コミュニケーションを補うモデルとして、個人の特性に注目するパーソナリティ・モデルが考えられます。どれも状況対応リーダーシップ®と組み合わせることを目的として考えだされたものではありませんが、お互いに補完的に活用することができます。パーソナリティ・モデルには、
  • ソーシャル・スタイル(Social Style)
  • DISC
  • NLP(Neuro Linguistic Programming)
などがあります。


ソーシャル・スタイル(Social Style)

ソーシャル・スタイルでは、「感情を表現する程度」と「考えを表現する程度」の2つの軸をとり、次図のように行動的、感覚的、協調的、思考的という4つの表現タイプを示しています。

ソーシャルスタイル

たとえば、行動的タイプ(Driver)のフォロアーは多くの場合、積極的にものごとに対処しようとしますが、安全だと感じるまで感情を表に出さない傾向があると言われます。このタイプのフォロアーに働きかける場合、リーダーははっきりと確信を持って伝える必要があります。

感覚的タイプ(Expressive)のフォロアーは、自分の主張や感情に対してオープンで歯に衣着せぬタイプだと言われます。リーダーがこのタイプのフォロアーに働きかけるときは、直感的に伝えることが有効です。

協調的タイプ(Amiable)のフォロアーは、友好的で親近感を感じやすく、丁寧で繊細だと言われます。リーダーが、このタイプのフォロアーに働きかけるときは、温かみをもって伝える必要があります。

思考的タイプ(Analytical)のフォロアーは、合理的で打ち解けにくいと言われます。リーダーがこのタイプのフォロアーに働きかけるときは、具体的で客観的なデータを示す必要があります。

DISC
同じように4つのタイプに分けるモデルにDISCがあります。DISCも「外向的⇔内向的」と「関係指向⇔タスク指向」の2つの軸を使って、「D(主導)」、「I(感化)」、「S(安定)」、「C(慎重)」という4つのタイプを示しています。


DISC


「関係指向⇔タスク指向」は、人間関係に対して感情を表現する程度が高いか、人間関係よりもタスク中心であまり感情を表現しないかという程度を表す軸なので、ソーシャル・スタイルの「感情を表現する程度」軸と重ねることができます。また、「外向的⇔内向的」の軸は、自分の考えや主張を外向的に積極的に伝える、あるいは内向的にあまり伝えないことの程度だととらえられますので、「考えを表現する程度」と重ねることができます。

2つのモデルを重ねたものに、それぞれのタイプに必要なリーダー行動を含めたものが次図になります。

ソーシャルスタイルとDISC、必要なリーダー行動


ソーシャルスタイル・Disc


このようにフォロアーが好むコミュニケーションの方法を知ることで、フォロアーに伝えようとすることの説得力が増し、またフォロアーも受け入れやすくなります。たとえリーダーがレディネスを的確に診断し、適合するリーダーシップ・スタイルがわかったとしても、コミュニケーションがうまくいかなければ、リーダーシップの効果性は下がってしまいます。


NLP(Neuro Linguistic Programming)
パーソナリティ・モデルに、もうひとつNLPと呼ばれるフォロアーのパーソナリティを知る方法があります。

どの人にも心理的・感覚的に好む表現方法があると言われていますが、状況対応リーダーシップ®と補完的に使える4つの感覚タイプは次の通りです。フォロアーに理解してもらい、リーダーのメッセージを受け入れてもらうには、フォロアーの好みを知ることが役立ちます。

NLPを活用した4つのタイプ
  • 視覚タイプ(Visuals):視ることで理解し受け入れる。
  • 聴覚タイプ(Auditory):聴くことで理解し受け入れる。
  • 体感タイプ(Kinesthetics):触れることで理解し受け入れる。
  • デジタルタイプ(Digitals):数字や事実など客観的データを知ることで理解し受け入れる。

注記:



2016年2月10日水曜日

非効果的なリーダーシップ

CLS Japan本部 網あづさ

スタイルがレディネスに適合していても非効果的なリーダーシップになってしまうことがあります。
  • 効果的なリーダーシップの場合は促進的言動(行動と言葉)
  • 非効果的なリーダーシップの場合は障害的言動
リーダーシップの効果性には、リーダーの行動だけではなく、フォロアーやメンバーたちの行動も大きな影響を与えます。もう一度、リーダーシップ機能を思い出してください。リーダーシップは、ある人がある人に「こうしてもらいたい」と思って、「意図した行動」をとることであり、なんらかの目標を達成しようとする働きかけです。メンバーのだれもがそういった意図する行動をとっています。どのメンバーも個人的な思惑や主張を持っており、それが促進的にも障害的にもなります。

促進的言動と障害的言動の例
  • S1で促進的言動の場合は「教示的スタイル」、障害的言動の場合は、「攻撃的スタイル
自分の優位性を主張、他人を排除する。批判的発言、怒鳴る、「こうさせているのはお前だよ」、失敗をなすりつける、責める、一方的で攻撃的。
  • S2で促進的行動の場合は「説得的スタイル」、障害的言動の場合は「操作的スタイル
自分に都合のいい解釈、他人の意見を聞かない。他人のあら探し、ケチをつける、詰問する、追い詰める、罠に引っかかるのを待ち構えて捕まえる。
  • S3で促進的行動の場合は「参加的スタイル」、障害的言動の場合は「依存的スタイル
同情を買おうとするが、改善努力はしない。うわべは前向きな関心を示しながら、否定的意見を述べる、誇張されたハンディを使って「本当はやりたいんだができない」と弁解する。
  • S4で促進的行動の場合は「委任的スタイル」、障害的言動の場合は「回避的スタイル
チーム活動を心理的にも物理的にも避ける。忙しく振る舞う、追い出されるように芝居をする。
以上の障害的言動は、チーム活動に悪影響を及ぼします。フォロアーの成長や効果性を前提とする促進的言動ではなく、自分の利益を優先させ、自分を守るためにリーダーシップをとる場合、スタイルが適合していても(指示的行動や協労的行動の組み合わせが適合していても)、リーダー行動は障害的になります。

レディネスが低いチームで、メンバーが自分の優位性を主張し、他メンバーを排除するような「攻撃的」な行動をとったとします。その場合、もともとチームレディネスが低いチームはいっそうバラバラになるか、バラバラなままでチーム活動は阻害されます。

「いらすとや 高圧的」の画像検索結果

同じように、チームレディネスが低いチームで、メンバーが自分に都合のいい解釈、他人の意見を聞かない、他人のあら探し、ケチをつける、詰問する、追い詰める、罠に引っかかるのを待ち構えて捕まえる、などのような自分にとって有利な状況を作るために「操作的」行動をとったとします。この場合も同様に、メンバー間の葛藤や対立は悪化するばかりで、チーム活動は阻害されます。

メンバーの障害的言動は、チームレディネスが高くても起こりえます。たとえば、あるメンバーが、同情を買おうと、うわべは前向きな関心を示しながら、「本当はやりたいんだができない」と弁解し、できない理由や否定的意見を述べたてるとします。このように、自分は貢献せず他メンバーの活動に「依存的」な行動をとるメンバーがいたら、他メンバーのやる気もそがれチーム活動は阻害されます。

また、やたら忙しく振る舞う、チーム活動から距離を置くよう芝居をする、というような「回避的」言動も、他メンバーの士気に悪影響を及ぼし、チーム活動を阻害します。

参考文献